三重

おやつどきから夕暮れに現れる、不思議な駄菓子屋「ゆるがし」ができるまで

書き手伊藤 成美

「お店を開く」と聞くと、思わず「すごいなぁ」と感じてしまう。お金も人手も必要で、準備することも多い。そんな大変なことに挑戦できるなんて「すごいなぁ」に尽きる。

けれど、もしかしたらこれは、ただの思い込みなのかもしれない。
桑名市にある駄菓子屋「ゆるがし」との出会いをきっかけに、そんなふうに思うようになった。
自分の中にある「当たり前」が揺さぶられる。そんな体験を味わえるちょっと不思議な駄菓子屋「ゆるがし」は、どのようにして生まれたのか。

駄菓子屋だけど、お店=建物がない!?

「ゆるがし」は近鉄名古屋線・益生駅から徒歩15分ほど、神社の門前通りにある。……はずなのだが、マップアプリが示す場所には、お店らしい建物は見当たらない。あるのはコンテナ型の貸し倉庫だけ。

それもそのはず。「ゆるがし」は営業日にだけ姿を現す、“青空”駄菓子屋。敷地の入り口に設置された2台のコンテナが商品や備品の保管庫、敷地内に組まれた、建築現場で目にする足場が商品陳列棚の役割を果たしている。

「店名は『あなたの当たり前を“揺るがし”ていく』って意味でつけたんです」。そう語るのは「ゆるがし」店主のいくぴーさん。ふだんは会員制レンタル古着屋「Fukumochi Vintage」の店長で、「ゆるがし」ではコンセプト設計などを担当する。

「駄菓子→ゆるいお菓子→ゆるがし」と想像していたが、見事に裏切られた。「お店とはこうあるもの」という考えも揺さぶられる。

いくぴーさんと共に「ゆるがし」を立ち上げた、もう一人の店主・あやかさんは、桑名市内にアトリエを構える建築家。「ゆるがし」のグラフィックデザインや空間設計を担当する。「Fukumochi Vintage」の会員で、古着の寄付やレンタルを通していくぴーさんと会話を重ねるうちに意気投合し、二人はほどなく「一緒に何かやりたいね!」と考えるように。「二人で力を合わせれば、思い描いたことを形にできる」。そんな確信を、互いに抱いたのだろう。「具体的に何をやるかを決める前に、まずはいくぴーと“婚約”したんです」と、あやかさんは笑顔で語る。

「ゆるがし」発起人のいくぴーさん(右)とあやかさん(左)

子どもも大人も使える場をつくることで、まちのアバンギャルドを引き出す

あるとき、二人に転機が訪れる。知り合いのコンテナ倉庫オーナーから「コンテナを使って何かやってみる?」と持ちかけられたのだ。コンテナをお店にできるなんて。提案されなければ思いつかない。そもそも、提案されること自体が驚きだ。オーナーも「何か面白いことをしてくれる」と期待した上での提案だったのでは、と想像する。

かくして、いくぴーさんとあやかさんはお店立ち上げに乗り出すことに。どんなお店にするのか考えるなかで「子どもも大人も使える場所」として、二人は駄菓子屋に目をつけた。目指したのは「益生のアバンギャルド(前衛)を引き出す駄菓子屋」だ。

「私たち、出会って間もない頃から、よく『世の中にはアバンギャルドが足りない』って口にしていて。やるなら、実験的な場にしたいと思ったんです」と話すいくぴーさん。まちに暮らす子どもや大人が交流する場を用意することで、一人ひとりの発想力や実現するための行動力を引き出したいと考えたわけだ。

空間設計に関して、あやかさんは「誰でも実現可能な方法を模索したいと考えました」とも。「お店など、人が集う場をつくりたいとなったときにネックになるのはお金。お金をかけず、どこでもできる方法として、足場を使うことにしました」と振り返る。

「やりたい」と思うことが、すべてのはじまり

約半年かけて準備を進め、「ゆるがし」は2025年12月にオープンした。営業日は主に水曜と金曜。15時頃に開店し、日が暮れる頃に閉店。雨天時は休業となる。

ほかの利用者のコンテナが並ぶスペースと区切るため、営業中はシートを垂らす
営業中、店先には畳を使った簡易ベンチを設置。畳の縁には「Fukumochi Vintage」の古着を使用する。

「お店番をしていると、道行く人に声をかけられるんです」とあやかさん。「井戸端会議に参加する感じというか。『ゆるがし』は道端の延長線上にあるお店なんだなって思いました。壁も扉もない、開かれた空間の可能性を感じましたね」と続ける。

いくぴーさんは「そのほかのコンテナも店舗として貸し出せば、将来的には商店街になっちゃうなって思っています」と話す。大きな夢だが「やりたいと思えば、やってやれないことはない」と思えるのは、自分の中にあった当たり前が揺るがされたから。と同時に、「揺るがされた」と感じるのは今だけなのでは、と思った。10年、20年、もっと先の未来では「ゆるがし」のようなお店がメジャーになっているかもしれない。「揺るがされた」先に何があるのか。答え合わせができるのは、もう少し後になるだろう。

建物も目立つ看板もない。そんな「ゆるがし」の目印は、いくぴーさんとあやかさんの姿。二人の姿が見えたら、ゆるゆるとおしゃべりを楽しんでみてほしい。もしかしたら、自分の中にある「こうあるべき」に気づくきっかけが得られるかもしれない。

書き手

伊藤 成美

愛知県名古屋市在住。 医療系ポータルサイト運営企業入職を契機にライターとしてのキャリアをスタート。2020年10月独立。 「“想い”をあらわすお手伝い役」としてフリーのライターとして活動するほか、イベント企画・運営、議論の壁打ち役などにも従事する。

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