100年先まで残したい「無鄰菴」の風景
山縣有朋の美意識が息づく借景庭園
背景となる山などの風景を、あたかも庭の一部のように取り込む「借景庭園」。自然と人工が溶けあうその存在は、自然との調和を大切にする日本文化を象徴するものの一つであり、100年後まで残す価値があるといえるでしょう。

京都にはいくつもの借景庭園がありますが、今回は中でも、京都・南禅寺のほど近くに佇む「無鄰菴(むりんあん)」をご紹介します。私は学生時代に無鄰菴を訪れ、借景庭園の存在を初めて知りました。市中にありながら、山裾の里山を訪れたかのような安らぎが感じられることから、今まで幾度となく足を運んでいます。
無鄰菴は、明治政府の中心人物の一人であった山縣有朋(やまがたありとも)の別邸として築かれました。約1000坪の敷地は直角三角形の形をしており、底辺にあたる部分に母屋や洋館、茶室が配置され、東へ延びる庭園が敷地面積の大半を占めています。
作庭したのは、近代を代表する庭師で「植治」として名高い七代目 小川治兵衛(おがわじへえ)。庭の背後に東山を望む、京都有数の借景庭園です。

東山の眺望と一体となった庭
「借景」「芝」「流れ」を取り入れたいとの山縣の意向を反映し、東山を背景にした庭に芝生空間が設けられ、完成直後の琵琶湖疏水の水が引き入れられました。琵琶湖疏水は、明治維新後に衰退した京都の復興に大きく貢献し、2025年には関連する5つの施設が国宝に指定されています。その誕生は水の流れを生かした庭園が南禅寺周辺に数多く誕生するきっかけにもなり、無鄰菴はその先駆けとなりました。
母屋の玄関から室内へ入り座敷に腰を下ろすと、建物の柱で縁どられた庭を、額縁に収められた絵のように眺めることができます。さらに、庭を散策しながら眺望の変化や水の流れを体感できるのも、無鄰菴の大きな魅力です。

庭を流れる小川は、まるで東山から流れ出ているかのようにも見えます。沓脱石で靴を履いた後、足元に注意しながら川に打たれた飛び石を渡り、園路を進んでいきます。
山中を思わせる苔と三段の滝
足を進めると、明るく開放的だった空間は次第に木立に囲まれ、園路の両側に広がる芝生も苔へと姿を変えていきます。苔は木立の下で自然に生えたものだそうですが、管理によって守られ、現在では数十種類が育っています。山懸は「苔の青みたる中に名もしらぬ草の花の咲出たるもめつらし」という言葉を石碑に残すなど、苔のある景色も愛でていたことがうかがえ、その精神が現在も引き継がれています。


庭園の突き当たりには、三段に石を組んだ滝があり、三か所の滝口から琵琶湖疎水の水が流れ落ちています。自然な雰囲気の石組みで、東山の山中の滝であるかのような印象を与えます。
山に抱かれた風景のもと、自然の中に身を置いたかのような臨場感が生まれ、心から安らぐ時間を過ごすことができました。
近代を代表する庭師の代表作として、また街中の癒しの場として、100年先まで残したい名園です。
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【無鄰菴】
住所:京都府京都市左京区南禅寺草川町31
※時間ごとの入場人数が決められているため、事前予約推奨